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第二話 麻雀のメッカ
「最初の行き先は新宿歌舞伎町よ」
「ええ!? 最後に行き着く先みたいなイメージあるけど!」
「だからこそよ。私たちの麻雀は最高峰クラスのものでありその技術は歌舞伎町ですら通用する。それでも私たちはノーレートや低レート、競技麻雀をする。なぜならレートに関係なく麻雀を愛しているから。そう主張するには最初に歌舞伎町制覇するのがいい」
「なるほど、ハイグレードなステージから逃げて初心者講座やってるというのでは説得力がないということね。たしかにそうだ」
「……ふふふ、できるかな? 言うのは簡単だけど、実際問題新宿歌舞伎町は麻雀のメッカ。レベルが高いに決まってる」
最初の行き先は歌舞伎町という事で決定となった。
「ねえ、ミサト。せっかく車も買ったけど新宿は電車で行かない? 駐車場代も高いだろうし……」
「そうね、じゃあ最初の旅は都内をぐるぐる山手線の旅にしましょうか」
「えー面白そう」
「とりあえず、1週間! 1週間の雀荘巡りで収支をプラスして帰ってくる。これが最初の目標にしましょう。できる? ユキ」
「私だって強くなったんだから。やってみせるわ。ミサトにだって負けないんだから!」
「おーおー、大きく出たな。頼もしい限り! よーし、じゃあ明日の朝10時に駅に待ち合わせでいいよね。そしたら今日はよく寝ること! 明日から修行の旅だかんね!」
「オッケー」
まずは新宿歌舞伎町!
────
──
2人は新宿駅を目指して電車に乗り込んだ。常に自分を鍛えているミサトは空いている車内でも立とうとするが「隣に座ってよ~」とユキが言うので仕方なく座るとユキはいつのまにかミサトの肩にもたれかかって寝てしまった。
(仕方ないなぁ)
────
──
「ユキ、ホラ! 降りるよ! 上野着いたから」
「うえの~? 新宿行くんじゃなかったっけ」
「乗り換えるの!」
「あっ、そっかあ」
2人は上野駅で山手線に乗り換えて新宿へと向かった。
「上野駅も降りてみたかったナ~。上野をドサ回りするなんて、かの有名な小説の雀士みたいじゃない」
「それを言うなら、その小説の主人公『坊や』は新宿代表だったはずよ」
「そう言えばそうか。なら新宿の次は上野に行こうよ」
「いいけど、観光したいだけでしょ」
「バレたか」
あーだこーだ話しているうちに新宿駅へと到着した。
「まずはここに行ってみようか」
その店は歌舞伎町一番街を入ってすぐにある昔ながらの雀荘『こいこい』
細長い階段を登った先に自動扉があった。店内は明るくて入りやすい。
ガーー
扉が開いた音で立ち番の男性スタッフがこちらに気付いて振り返った。
「いらっしゃいませ! あっ!? 井川プロ?」
「ん? ああ、工藤組の……」
工藤組とはかつて実力派として麻雀界で一躍有名になったスキンヘッドの工藤強(くどうつよし)。その弟子たちのことである。工藤のそのコワモテから暴力団を連想するので『工藤組』と名付けられたとかなんとか。もちろん実際の工藤は面倒見のいい優しい男であり、組員とかではない。
「知り合い?」
「あー、こちらは師団の、私より一期先輩で……(名前なんだったっけ)大洗鹿島線の駅名の…」
「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前?」
「いや、それだけは絶対違うでしょ! 鉾田(ほこた)です! 井川プロのご友人でしょうか? はじめまして」
「あ、そうそう鉾田」
「ポコタ?」
「ホね! ホコタ!」
「いいじゃない。ポコタさんで。かわいいわよ?」
「井川プロ、からかわないで下さいよ。私は一応先輩なんですからね?」
「はーい。ねえ、鉾田プロ。私たち初めてなんだけど」
「初めてのご来店ありがとうございます、それでは当店のルールを説明させていただきますので、お掛けになってお待ち下さい」
────
──
「とまあ、こんな所ですが。現在ラスハン1件ですので、すみませんがとりあえずはお1人ご案内して、お1人は誰か来るかラスハンが入るのをお待ちすることになりますが、よろしいでしょうか」
「かまいません、それなら最初は私が行くわ。後ろ見はOKなのかしら?」
「まあ、座りながら遠目に見るくらいは可です」
「じゃあとりあえずユキは私の麻雀見てればいいから」
「うん、そうする! ミサトの麻雀はすごく勉強になるし」
「それではお待たせいたしました。待ち席でお待ちの井川さまこちら北家からのスタートとなります!」
「よろしくお願いします」
対局開始!
36.第三話 これが井川ミサトの麻雀です 対局開始してものの数分で井川ミサトはその高い技術を見せつけてきた。東3局4巡目ミサト手牌四伍④④④12345北北北 6ツモ「リーチ」打北(あれっ? てっきり④筒切りだと思ったけど)鉾田がユキと一緒になって後方から眺めている。(ポコタさんの言いたいことは分かります。④筒も北もまだ1枚残っているからアンカンして※テンパネのことを考えたら北残しの方が高くなるってことでしょ)(そうそう、僕なら絶対に符が高い方にとるけど。あとホコタね) すると2巡後に下家からもリーチが飛んでくる。「リーチ」下家手牌三三六七八⑤⑥4566782巡後ミサトツモ番ツモ④「カン」 そう、ミサトは後々引いてきた時危険な④筒をアンカンで出ないようにするために北を捨てていたのである。(見ましたか? これが井川ミサトの麻雀です) ユキが自分の事のように自慢する。(まいったな、僕ならここで放銃だ。さすが『護りのミサト』と言われるだけはある) しかし、その後……ミサトのツモ番ツモ⑦「ロン」
35.第二話 麻雀のメッカ「最初の行き先は新宿歌舞伎町よ」「ええ!? 最後に行き着く先みたいなイメージあるけど!」「だからこそよ。私たちの麻雀は最高峰クラスのものでありその技術は歌舞伎町ですら通用する。それでも私たちはノーレートや低レート、競技麻雀をする。なぜならレートに関係なく麻雀を愛しているから。そう主張するには最初に歌舞伎町制覇するのがいい」「なるほど、ハイグレードなステージから逃げて初心者講座やってるというのでは説得力がないということね。たしかにそうだ」「……ふふふ、できるかな? 言うのは簡単だけど、実際問題新宿歌舞伎町は麻雀のメッカ。レベルが高いに決まってる」 最初の行き先は歌舞伎町という事で決定となった。「ねえ、ミサト。せっかく車も買ったけど新宿は電車で行かない? 駐車場代も高いだろうし……」「そうね、じゃあ最初の旅は都内をぐるぐる山手線の旅にしましょうか」「えー面白そう」「とりあえず、1週間! 1週間の雀荘巡りで収支をプラスして帰ってくる。これが最初の目標にしましょう。できる? ユキ」「私だって強くなったんだから。やってみせるわ。ミサトにだって負けないんだから!」「おーおー、大きく出たな。頼もしい限り! よーし、じゃあ明日の朝10時に駅に待ち合わせでいいよね。そしたら今日はよく寝ること! 明日から修行の旅だかんね!」「オッケー」 まずは新宿歌舞伎町!────── 2人は
34. 井川美沙都を(いがわみさと)は守備力で右に出る者はいないとまで言われた一流の女流雀士だ。 その実力は誰もが認める所だが、しかし大きな勝負で優勝するのはいつも白山詩織(はくざんしおり)か財前姉妹(ざいぜんしまい)だった。そのことがミサトは悔しくてたまらない。 自分の麻雀に限界を感じ。今のままを繰り返した所でナンバーワンにはなれない。そう悟ったミサトは自分の殻を破るための冒険の旅に出ることを決意した。 これは【財前姉妹】の後の世界をミサトを主役として書いた冒険の物語!三章 護りのミサト!~女流雀士冒険譚~その1第一話 打倒! 財前姉妹!『優勝は井川美沙都プロ!』ワアアア! ワアアア! ワアアア!パチパチパチパチパチパチパチパチ!! 大歓声と拍手の雨だ、とても誇らしい。私は優勝したんだ。(ん? 優勝した? そうだっけか? 何で優勝したんだっけ。思い出せない……)──────「ハッ!」「あっ、ミサトおはよう」「……あーー……ユキ、おはよう……夢、か……」──── 私は井川ミサト。デビューして即で新人王戦優勝。その後も数々の大会で決勝
33.闇メン エピローグ そして伝説へ 結局『ラッキーボーイ』は閉店し、移転することは無かった。椎名は次第に仕事が減ってきたので渡邉さんに頼んで長期休暇を貰い旅打ちでもしようと思い立った。 たまにはこういうのもいい。ヤシロが鼻歌でよく歌っていた『戦場の足跡』という曲を聴きながら、気ままな旅をする。カバンには日吉オーナーから貰ったキーホルダーをつけて。 しかし、その行き先でキーホルダーを落としてしまう。すぐに気付いて引き返すと中学生くらいの少女がそれを拾ってとても興味ありげに眺めていた。「綺麗……」(これ、麻雀牌ってやつかな。真っ赤で宝石が付いてて。素敵だな)「あ、あった! ゴメンそれ僕の!」そう言う椎名の外見は細くて清潔感がありシャキッとした服装の真面目な好青年という印象を受けたので麻雀牌を落としたのが彼だというのが少女にはちょっと意外だった。(なんか、ギャンブラーとか、チンピラとかとは真逆みたいな印象の人だな。麻雀ってこういう人もやるんだ……)「キーホルダーだったんだけどとれちゃったか。気に入ってたんだけどな」 牌の上部にはネジ穴のようなものがあいていた。「お嬢さん、さっきそれじっと見てたけど、気に入ったのかな? 壊れちゃったので良ければあげるけど」「えっ、いいんですか!?」「うん。それがきっかけで麻雀に興味を持つ子が増えたりしたら僕も嬉しいし。一応とれたチェーンもあげとくね。大事にしてあげて」「ありがとうございます」「うん、いいよ。やっぱり宝石は男が持つより女の子にこそ似合うしね。きみに貰って欲しいってきっと牌も言ってるさ」 こうして、その少女は麻雀に興味を持ち、その後の麻雀界を変える程の歴史的な発見、新戦術を生み出す伝説の人物となる――◆◇◆◇牌神話テーマソング【戦場の足跡】作詞:彼方味方のいないはずの世界に味方のような顔をする奴がいる支えのないはずの場所に支えてくれそうな人がいるそんなはずはないそれは罠だ期待するな、信じるな安心するな、警戒を解くなヤツらの口をよく見てみろお前を喰らうための牙があるだろ私たちは戦士なんだ自分だけが頼りなんだ気を抜いたヤツから喰われる世界味方であるはずの男が味方ではなかったように支えてくれた人たちが全部おためごかしだったように それが世界だそこが戦場だ
32.二章 最終話 おれは闇メン 近頃『ラッキーボーイ』に闇メンが呼ばれる回数が減った。(常連の誰かに嫌われちゃったかな? だとしたら工藤さんかな?) 椎名はそんなことを想像した。 今は卓割れ中でお客さんはいないし従業員には買い物に行って貰ってるから現状オーナーの日吉さんと2人きりだった。なので椎名はこの隙にレジに置いてあるシフト表を見てみた。すると最近呼ばれる回数が減ったのがなんでなのか納得した。知らぬ間に新人が入っていたのだ。それも女の子。聞くと麻雀も打てるらしい。それじゃあ高い給料払って闇メンを呼ぶよりずっといい。 「椎名くんゴメンねえ。今は人が足りてるしそれに……」「それに?」「うん、それにこの建物は老朽化が進んでて、もうあと2ヶ月後には取り壊しなんだ」「えっ! ていうか、取り壊しなのに新人雇ったの?」「まだ、移転するかもしれないし、すごい可愛い子なんだよ。そんな子が突然履歴書持ってきたら雇わないオーナーとかは居ないだろう」 椎名は履歴書の写真を見せてもらった。 アイドルみたいに可愛い子だった。これは雇って当たり前だ。下心とかそういうのがなくても普通に採用してしまうだろう。(これは看板娘になるぞ)と思ったはずだ。「こりゃあ可愛いや。花岡縁(ハナオカユカリ)? なんだか名前までアイドルみたいじゃないか」「身長も高くて目立つんだよ。性格もまっすぐで真面目ないい子でさ」「なら、どうにか閉店じゃなくて移転にしたい所ですね」「だといいけど、まだ移転する先が見つからなくてね。まあ、そう都合良くは行かないかもね。なるようにしかならんさ…… そうそう、今日来たらしばらく渡邉さんとこへの依頼をする予定はないから…&
31.第六話 工藤、自分を知る「どっ、どういうことだ……」「何がかしら?」「いやだって今の手、明らかに字牌を絞ったノーテン……」「あら、そうだったかしら。覚えてないわ」 やられた―― つまり、このお嬢さんはオレの満ツモ条件を把握して、ラス目から出たら見逃しするだろうと読み、おれの一瞬の身体の反応から(いま見逃したな)と看破して、ノーテンからロンしたんだ。そうすれば、じゃあ倒すしかないと考えてオレがロンして二着終了させると踏んで。これはダメだ。どうやっても勝てない。ギャンブラーとしてのその器があまりにも違う――「悪い、オレ抜けていいですか。ちょっともう無理だわ」「大丈夫ですよ。次からはラスハンコールのご協力をお願いしますね」「あらあ。残念。もうやめるの?」「ああ、もうこれからは麻雀は遊びでやる。今日限りで(職人として打つのは)やめだ」「うん? じゃあ遊びじゃなきゃ今日のはなんだったのかしら?」(稼ぐつもりで打ちに来てたなんて恥ずかしくて言えるわけねえや……)「まあ、またくるよ。おつかれ」「またねー♡」──── こうして、麻雀職人だった工藤ツヨシは引退した。自分では超えられない存在をほんの短期間の間にあまりにも多く見てしまったから。 工藤は帰り道を歩きながら色々な事を思い出していた。 仲間内で最強だった頃の事。 プロ入りして先輩達をも負かした話題の新人だった頃の事。 代表や理事長と揉めて、こんな団体の看板なんか無くてもオレはプロフェッショナルとして生きて行ける